画像の説明

三井住友信託銀行元副会長

野口謙吾

不動産を通して”ご縁”をつなぎ、人の流動性を高め、経済の好循環を生み出す

share
Xアイコン facebookアイコン

野口謙吾 / 三井住友信託銀行株式会社 エグゼクティブアドバイザー | NES(New Ecosystem for Startups) 株式会社 取締役・ファウンダー | 三井住友信託銀行株式会社元副会長。1985年4月住友信託銀行株式会社入社。同社執行役員投資金融部長、常務執行役員ストラクチャードファイナンス部長を経て、2016年に常務執行役員に就任。2021年取締役副社長に就任。2023年副会長に就任。

日本では少子高齢化や東京一極集中により、不動産市場において空き家などの問題が叫ばれています。この事態に「いよいよリミットが近づいている。このままでは不動産市場が持たない」と危機感を募らせる野口さん。

unitoの「リレント」システムは、このような不動産市場の危機を打開する可能性を秘めていると言います。今回は、三井住友信託銀行株式会社 副会長執行役員の野口謙吾さんに、現代の不動産市場における課題やunitoの「リレント」システム、今後の不動産業界のトレンド・暮らしの未来についてお話いただきました。

不動産との出会いは「ご縁」

野口さんは、なぜ銀行員を志したのですか?

もともと私は、東レやレナウン、帝人といった繊維業界の会社に就職したいと考えていました。私が大学生の時は繊維業界自体、あまり人気ではありませんでしたが、帝人がTEIJIN MEN’S SHOPというのを運営しており、それがとてもお洒落だったんです。次第に、将来はTEIJIN MEN’S SHOPの店長になりたいと考えるようになりました。

就職活動を頑張り、繊維系の企業から内定を貰っていましたが、ある方から「これからは信託の時代だ」と言われたことや、両親が当時の住友信託を利用していたこともあり、住友信託銀行を受けてみることにしました。その際、OB訪問で偶然お会いした同じ慶応義塾大学出身の先輩が本当に素敵な方だったんです。さらに、人事部で採用を担当している方にもお会いしましたが、この方がとてもお洒落でした。

そして、最後にその方が「私と働こう」と手を差し伸べてくれたため、住友信託銀行に入社することに決めました。今思うと、ご縁があったんだなと思います。

ご縁があって銀行に入社されたんですね。入社後、不動産とはどのように出会ったのですか?

信託銀行は、事業として不動産仲介も行っています。そのため、入社1年目に宅建を取り、業務を行っていました。途中、入社4年目から2年間通産省に出向し、入社7年目で住友信託銀行に戻ってくることになりました。役所に出向した場合、戻ってきた際は大体は調査部や公共法人部、業務部など、役所に関係するような部署に配属されることが多いのですが、戻ってくる前の人事との面談で「野口くんは営業に向いてる。新規開拓が面白いぞ」と言われ、日比谷支店の新規不動産課に配属されることになりました。そこで不動産仲介や新規開拓などを2年間しました。

入社してから10年目くらいに信託銀行の営業として、ある上場会社の債権を担当しました。その会社はM&Aでいろいろな会社を買収していましたが、全部だめになってしまい、借金が膨らんでしまいました。それを整理したんです。その際、不動産の処分や持っていた金融子会社の売却を行いました。当時、まだ私は若かったのですが、住友信託銀行がその会社のメインバンクだったため、自分が担当として1つ1つデューデリジェンスし、どれを売却し、どれを閉じるのか等考え、それを他の銀行団の担当者に承認してもらうことになりました。

この時に、企業の価値をどう弾くかというのを勉強させてもらいました。加えて、銀行団をどうやって引っ張って来るのか、他の銀行の足並みをどう揃えさせるのかをその時に学びました。

その後、総合商社を担当するようになりましたが、これも大きな転機でした。総合商社は当時、多くの連結対象子会社がありました。例えば伊藤忠商事の場合、1000を超えていました。いわゆるコングロマリットです。様々な事業の川上から川下まで、バリューチェーン全部に出資しながら抑えていくということをされていました。そういったことを間近で見ることができ、非常に勉強になりました。

この後、M&Aのアドバイザリー業務をやったことがありますが、その時も総合商社を担当した時の経験が役に立ちました。

支店長になった後、ストラクチャードファイナンスやクレジットインベストメント、プロジェクトファイナンスなどをしていたのですが、リーマンショックで大きな損を出してしまいました。しかし、そこで落ち込むのではなく、値下がりした不動産を購入しました。審査部に通す際、反対されましたが、社長に私自身の見解をお話してご理解いただくとともに、丁寧に審査部の方を説得し、結果的に千億円単位でアセットをディスカウントで購入しました。それが後に大きな収益を生みました。商売の基本は、安く仕入れて高く売ることです。それは投資も同じです。

そのようなご経験の後、トラスト不動産投資顧問株式会社の会長に就任されたのですか?

不動産に関わるビジネスは当社グループにとって大きく、非常に大事な事業です。そのため、この中の1つであるアセットマネジメントをメイン事業に引き上げ、不動産のインベストメントマネジメントができる会社に育てたいとう思いから、2018年10月に当時自分が見ていた不動産事業を、私が見ている法人アセットマネジメント事業の方に引っ張って所属を変え、自分がその部門のトップとして会長に就任しました。アセットマネジメントは時間軸もかかりますし、多くの収益が生まれる事業では無いため、他の事業に比べると地味です。

しかし、アセットマネジメントを増やしていくことで、収益のブレを少なくすることができます。そして、そのような事業がパワーを持つと、そこに情報が集まってきます。このように、相乗効果が生まれるため、大きくしたいと考えました。当時「皆がこの会社に来たいと思う会社にしよう。そのために給料を倍にする。そのためにはどうしたらいいか考えていこう」と言っていましたが、これはまだ実現していません。けれど、当時に比べると良い会社に成長したと思います。

unitoの「リレント」が日本の不動産市場が抱える課題を解決する可能性を秘めている

2011年くらいから不動産は高値を更新し続けていますが、このような状況の中で現代の不動産市場における最大の課題は何だと思いますか?

日本の場合、様々な問題があるものの、金融機関が多いため、デットファイナンスが潤沢にあります。すごく儲かっているかと言うと、そうではないかもしれませんが、資金があるため、経営も安定しており、本来はもっとリスクを取れるはずなんです。

そうすると、しばらくは本当の意味での需給以上にお金がついてしまうことで開発が進んでいくと思います。最終的には、マーケットにおいて需要よりも供給が多くなれば供給過多になり、値崩れすると思います。

加えて、現在の東京一極集中の中で地方の空き家問題も含め、マーケットが成り立たない状態になってきています。これをどう止めるかではなく、どのように新しいマーケットに衣替えできるかが重要だと考えています。実際、今のインバウンドを見ていると、とても多くの人が地方に来ています。意外にその地域に住んでいる人ではなく、外の人の方がその地域の価値に気づきやすいです。大分先の話しだとは思いますが、6Gなどリモート環境がより良くなったら、東京にいる理由は益々無くなるんじゃないかなと思います。これからの不動産の在り方は、みんなの暮らし方や生活スタイルに直結するため、生活スタイルがどう変わっていくか半歩先くらいを先読みして追いかけていく必要があります。

供給過多になっていく中で、日本のユーザー側は少子高齢化で需要は減ってきているため、移民や外国人観光客など外からのマーケットを取ってこないと、特に地方は供給過多で需要が減ってしまうということですね?

世界を見てみると、成長している国は、異質を受け入れて成長しています。アメリカがその典型です。様々な推進力を集めて付加価値が生まれるため、エコシステムができます。しかし、日本は外から入ってくることにアレルギーがある国で、異質なものを排除しようとする傾向があります。これでは、いよいよ持たないと思います。今のインバウンドの状況が日常的になってくると、日本人もその状況に慣れてきて違和感を感じなくなると思います。

例えば、熊本に台湾の半導体工場が来ましたが、その影響で周辺に住宅が建ちます。すると、そこに引っ越してきた人々は家具を揃え、自動車を買うでしょう。そして、あの半導体工場の給料は時給2000~3000円と高いですよね。そうすると、周りの会社もそれに対抗しなければ良い人材を獲得することができないため、皆努力して変わっていきます。

このように、何か1つ大きなショックのようなものがあると、人は変わることができると考えています。今後、不動産も在り方が変わっていくと思います。

unitoの「リレント」システムについてどう思いますか?

今後、東京でビジネスをやりたい、東京でしばらく暮らしたい、季節によって住む場所を変えたいなど、複数個所に住みたいと考える人が多く出てくると思います。この時問題になるのが、体は1つであるため、こちらの家に行くと他の家が空いてしまいもったいないと感じてしまうことです。この問題を上手く解決するのがリレント事業だと思っています。

所有するのではなく、いろんな所を利用できる権利を持つことができるのがリレントの良さです。これからの生活スタイル、住居ポートフォリオのようなものを満たしてくれる可能性をとても感じています。

今、Unitoさんは都心を中心に展開されていますが、それは地方や都心部から少し外れた人が対象なのだと思います。これをこの先、都心部を使っている人に極めてただ同然で地方にある施設を使えるようにしてオマケを付けたり、同じ環境とかを揃えてあげてどこに行っても同じ環境で何かができるようにしたりすると、使ってみたいと思う人が増えるのではないかと考えています。地方の中核都市であれば、まだまだビジネスのチャンスがあるため、都心で働いている人は仕事等で地方の中核都市に行くことがあると思います。何かセットでできることがあれば、使いたいと思う人はいると思います。

また、日本は住居の密閉性が世界でも低いと言われています。加えて、これから温暖化していく時に、外が常に40度でも快適に暮らせる住居やオフィス等を提供しなければいけないとなった場合、おそらく今あるものを作り替える必要があると思います。ここに、新たなマーケットが出現します。例えば、私の自宅はマンションなのですが、今2回目の大規模修繕中です。

年月が経ってくると、インターネット環境などスペックが低くなってしまうといった問題が出てきます。もし、都心でリレントを供給していれば、大規模修繕の間の仮住まいにするという需要も出てくると考えています。そこに良いファシリティを用意することによって、家よりもリレントの方が快適な空間になり、1週間のうち3日はこっちにいたいと思う人がもっと増えるのではないかと思います。

このように、新しいマーケットができてくると思いますが、そのことによって中には使われなくなっていくものも出てきます。これについては、街づくりの中で別の手法で打ち取っていくといいと思います。常に同じようなものが、同じように売買されている訳ではなく、改訂しながら経済は回っていきます。そのため、あまり心配しなくていいのではないかなと思います。

今後の不動産業界で重要になると思われるトレンドや、暮らしの未来についての考察をお聞かせいただければ幸いです。

人間は生きている間、常に不動産に関わって生きています。オフィスに来ても、家にいる時も、スポーツやってる時も。その中で、時代に合わせて不動産の使い方は変化してきています。以前は一生懸命働いてローンを借りて家を建て、そこを終の棲家にする人が多かったのですが、今の若い方はご夫婦でフルローンで借りて、移り住みながら蓄財もしています。

私は、これは賃貸の変形だと思っています。例えば、昔は頭金を2割用意しなければ、ローンを借りることができませんでした。5千万円の物件を買おうとしたら、頭金は1千万円必要です。しかし、1千万円貯めるのはとても難しいです。今の若い方たちの場合、ローンが昔よりも進化していますし、夫婦で稼ぎながら支払っていくことができます。例えば、7千万円の物件を頭金なしで夫婦でフルローンで借りる場合、住宅減税を受けることができますし、現在は金利もほぼゼロに近いため、賃貸で借りるよりも買った方が安くなります。

また、値上がりしたら家を売却し、転居することで蓄財も可能です。今の若い人のすごいところは、そういったことに抵抗が無いところですね。

若いミレニアル世代の人たちの方が考え方が柔軟で挑戦心もあるため、不動産マーケットの活性化にも寄与していますよね。

若い人を中心に、2拠点あるのが普通になるかもしれません。リレントのように自分で借りながら他の人に貸すことで、週末に子どもと過ごす場所として使用したり、平日都心に住むために使うといった使い方ができるようになります。そして今、そのニーズが増えています。正直、私自身も使いたいと思っています。供給量さえ増やせば、埋まると思うんです。高い経済効果が期待できると思います。