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三井不動産レジデンシャル株式会社

櫻井公平

誰もが理想の暮らしを送れる拠点をつくり、住の自由化を実現

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近年、人々の住まいや暮らし、働き方が多様化してきています。特にコロナ禍以降、都会と田舎に居宅を構えてデュアルライフを送る「デュアラー」や「二地域居住」といった言葉が注目され、よりフレキシブルで新しいライフスタイルが求められています。このようなニーズに応えるべく、「住の自由化」をコンセプトに誕生した「n’estate(ネステート)」。今回は、実際に「n’estate」の立ち上げに携わった三井不動産レジデンシャル株式会社 櫻井公平さんが描くに新しい暮らしや住まいのあり方、不動産の未来「n’estate」への想いをお話いただきました。

住みたい場所と働きたい場所が違うことへの違和感がn’estateの始まり

三井不動産レジデンシャル「n’estate」のサービス・プロジェクトについて、概要やきっかけ、最近の取り組みを教えてください。

「n’estate」は、三井不動産レジデンシャルが提供している多拠点居住サービスです。都心や地方都市を中心に、三井不動産グループ企業やパートナー企業の施設を活用して、個人が自由に拠点を選択したり、組み合わせたりしながら生活することができるライフスタイルを提供しているのが特長です。

もともと「n’estate」は、「住の自由化」をコンセプトとした社内の新規事業として始まりました。日本では、理想の住まいを諦めてオフィスの近くに住むか、理想の住まいで暮らすために通勤時間を堪えるかというジレンマを抱えている人が多くいます。私は十数年間不動産会社で働いていますが、住みたい場所と働きたい場所が違うということにずっと違和感を持っていました。とは言うものの、オフィスに人が集まって働く価値も、もちろんあると思っています。

2020年頃から、「デュアラー」や「二地域居住」が注目され始めました。私自身とても興味があり、可能性を感じていました。そんな中、オフィスから離れた場所で暮らしたいと思った時に、暮らしたい場所に住まいを持ちつつも、都心の近くにも居宅を持てるサービスがあったらいいのではないかと思い至ったのが「n’estate」を始めたるきっかけです。

また、このプロジェクトを始めた4~5年前は、都心にある物件の価格が高騰していました。そのため、それまでは70㎡の3LDKが主体だったのが、50、60㎡後半の2、3Lにファミリーやカップルに住んでもらえるようにするためには、グロスを抑えて50、60㎡後半の2、3LDKを供給しなければいけない状況でした。この時「都心の小さな部屋に、ファミリーやカップルを閉じ込めるようなことをしたくてディベロッパーになったわけではないのに……。」と悔しい気持ちになったのを覚えています。やっぱり、広い家に住みたいですよね。

ディベロッパーだからこその悩みですね。

三井不動産レジデンシャルでは、賃貸住宅などをつくっていますが、正直なところ25㎡のワンルームや1DKを賃料の単価を上げて売るのが一番儲かります。しかし、それは果たして人の役に立つ、社会的意義のあることなのかと疑問に感じていました。そういったことから、もっと住まいの在り方が自由になり、いくつかの拠点を上手く使いこなせるようなサービスを作れたらいいなと思い、このプロジェクトを立ち上げました。

まずは、三井不動産レジデンシャルの都市向け賃貸マンションシリーズ「PARK AXIS(パークアクシス)」を家具付きにして民泊もできるようにし、帰らない日は家賃がかからない「unito」のシステムを活用し、空いていたら明日にでも使えるようにしました。

さらに、地域社会で活躍する社会のプレイヤーともどんどん組んで、ソフト面でのサービスも充実させてやっていきたいと考えているため、すでに保育サービス付きプラン「n'estate with kids」というサービスも提供しています。子育て世代が、地方にで、もう1つ自分の居宅を持つことを考えた時、一番ネックになるのはお子さんの教育環境です。

その問題を解消する取り組みの一環として、都心に住んでいるファミリー向けに、お子さんを地域の保育園に一旦預け、母親や父親がワーケーションできる「n'estate with kids」プランを提供し始めました。現在、「ショウナイホテル スイデンテラス」(山形県鶴岡市)と「カラリト五島列島」(長崎県五島市)の2施設、3自治体と連携して取り組んでいますが、2024年の年明けからは秋田県でも同様の取り組みを始める予定です。

また、現在は保育園のみですが、今後は義務教育課程である小学校についても取り組んでみたいと考えています。

「n’estate」を通して、日本の不動産市場が抱える課題を解決したい

短期留学みたいで、面白いですね。建材費が高騰したために、家賃が上がってしまい、住む場所が小さくなっていくというお話がありましたが、現在も似たような状況にあると思います。

他にも、現代の不動産市場には様々な課題がありますが、新しい暮らしや未来の不動産は、今後どのようになっていくのか見解や、「n’estate」への想いをお伺いできればと思います。

現在、都心に不動産の価値や物件群が一極集中していますが、今後日本の人口はどんどん減っていきます。

そうなった時、今以上に地方の僻地や都会から遠く離れた地域や、地方大都市とまではいかない都市が、より規模が縮小していってしまうのではないかと危惧しています。

国防の観点からも、それは日本にとって決して良いことだけではないと思っています。

そのため、不動産業界にいる人間として、地方の開発や地方の論点について、今後も大いに論じていきたいと考えています。

そこに「暮らしの最適化」というコンセプトを持った「unito」や「n’estate」のような、都心にも地方にも家があり、住んでいない間は貸し出すことができる仕組みがあると、地方にも良い影響があるのではないかと思います。

※株式会社Unitoが運営する「unito(ユニット)」で利用できる販売されているn’estateパークアクシス池袋(土日リレントを行う場合)

未来の不動産についてですが、現在は住宅の区分所有がとても多く、最近はオフィスも区分所有が増えています。

しかし、これには問題点があります。例えば、100戸の分譲マンションを100人が契約し、所有していたとします。

時を経るにつれて相続などで権利が割れていくため、50年後や100年後にそのマンションを建て替えたり、延命する必要がある場合に、全員と合意形成するのはとても大変です。

ディベロッパーは、売って終わりになりがちですが、法律を含め、数十年後のことを考えた区分所有権の在り方についても考えていかなければいけないと思っています。

実際、不動産業界にはたくさんのルールがあり、雁字搦めになっていますよね。
それをより軽くしていきたいというのが「n’estate」 n’estate だと思います。
「n’estate」n’estate を通して、より不動産を流動化させ、個々人のライフスタイルを多様化させたいという想いがあるということですか?

日本人は、海外の人に比べて所有欲や新築信仰が根強くあるように思いますが、その価値観が少しずつ若い世代から変わってきていると感じています。

「unito」の帰らない日はその部屋を貸し出すことで家賃が割引される「リレント」のようなシェアの概念に基づいた仕組みがあれば、自分が持っていたり、自分が主に使うけれど使わない時は住まいを他の人とシェアすることで、負担額を下げることができます。

また、オーナーであれば、家賃収入を得ることができます。

私はそういった考え方は、今後どんどん浸透していくべきだと思っています。それを三井不動産グループのサービスとして、いきなり提供するのは会社の規模として難しいことなので、「unito」と組んでそういった世界観を打ち出すことは、非常に重要だと考えています。

スタートアップやベンチャー企業は「分からないけれど、未来に対して良いと思うこと」にすぐに取り組めると思いますが、大企業ではそれがなかなかできないように思います。

そのような中、大企業の社内で通していこうとする志やモチベーションの源泉、大企業として取り組む価値があると思った理由は何ですか?

大企業は、基本的には既存領域でやっていくだけでも儲かります。

勝率8割くらいのところでずっと事業をしているため、都心の不動産が上手く回っているのですが、どこかで変化して新しいことをやっていかなければいけないけません。

しかし、社内にいると、既存領域のことには詳しくなる一方で、新しいことをやろうとする筋肉みたいなものが育ち切らないと感じています。

例えば、社内で新規事業部門がつくられて人事異動で配属されると、ゼロから勉強する必要があります。しかし、その間に社会は動いています。

もし、社内に常に新しいことに取り組む出島のような機能があり、ある程度予算が付くのであれば、スタートアップやベンチャー企業のような新しいことを考える人たちと組み、顧客との接点を持ってマーケティングすることで、動いていく社会のスピードに追いつく、もっと言えば社会よりも早いスピードで、先取りできる動きが、社内にも還元され、取り込まれていくのは非常に良いと思っています。そういう思いで、「unito」などと組んでやっています。

ありがとうございます。リレントシステムについては、どう思いますか?また、どのように「n’estate」 n’estate に取り入れていきたいと思っていますか?

「リレント」という仕組み自体は、とても良いと思っています。自分が使わない時や居ない時に住まいを誰かに使ってもらって、しかも綺麗になって帰ってくるというのは、とても合理的です。

また、オーナーにとっても、家賃を二重取りできるので、良い仕組みだと思います。

それに、ただ住宅をつくるよりも、基本的には住宅で賃貸借ではあるけれど、地域の外からも人がやって来るようになる「リレント」のような仕組みのある物件があると、その物件がある地域も活性化すると思います。

なので、もっと浸透していくといいなと思います。

「n’estate」で使っている弊社のアセットは、基本的には住宅であるため、「リレント」してもらうためには民泊という形になります。現在、民泊のルールは各行政区や用途地域によって異なるため、新宿だから大丈夫と思っても、住居専用地域であるためできないということもよくあるので、そこは注意する必要がありますね。

重要なのは若い世代に響く、ストーリーや文脈のある街づくり

最後に、2020年以降、建材費なども上がってきた中で、今後の不動産業界で重要になると思われるトレンドは何だと思いますか?

様々な観点があると思いますが、特にこれから住まいを探していこうとしている若い世代に関しては、ストーリーや文脈があるような街づくりがとても重要になってくるのではないかと考えています。東京にある大橋会館がそれに近いと思っています。カルチャーやアートなど、上手くストーリーや文脈をつくることによって、若い人に響いて「あえてここに住もう」と思ってくれるのではないかと考えています。

なので、現在のように全部更地にして新しくゼロからつくるというよりは、これまでの歴史・文化を物件や運営に反映した開発をしていくのがいいのかなと思います。そうすると、センスの良い人や自分と同じ方向にアンテナが向いている人、そういった人たちのライフスタイルを追体験したい人が集まって来きてくれます。

今までは土地や物件といったハードだけだったのが、歴史や文化、そこに関わっている人を可視化し、「ここに関わりたい」「このストーリーが好きだから」という理由で人が集まってくるようにしたいということですね。確かに、そのような物件が増えましたよね。

三井不動産グループの事業提案制度「MAG!C」から立ち上がったプロジェクトをレジデンシャルが現在つくっている物件の1つに、都会の身軽でゆたかな暮らしを目指した「SOCO HAUSAUSE(ソコハウス)」という新しい女性単身者向けの賃貸レジデンスマンションがあります。その第一弾はかつての三井不動産の社員寮をリノベーションした一人暮らしの女性に向けた物件となっています。シェアハウスのような感じですね。株式会社水星の代表取締役CEOの龍崎翔子さんに家具の選定やデザインをお願いして、世界観をしっかりつくりこんでいます。

もともと三井不動産の男子寮だったところを使っているため、部屋は少し狭いです。

ただ、今はその「キッチンや使用頻度の少ない家具・家電を部屋の外(共用部)に配置することで、居室に自由な空間を生み出し、自分の"好き"を詰め込む」「都会の真ん中でも、身軽でゆたかな暮らしを実現する」というコンセプトと、それを具現化するクリエイターの方々との協業によって生み出す世界観やストーリーに共感してくれる人が集まってきていて、客溜まりのようになっています。

Instagramを見て、入居したいと思っていただいている方がとても多いみたいです。よく新築マンションに「〜〜駅まで徒歩~分」など書かれていますが、そういった訴求の方法し方ではない人の寄せ方、魅力の打ち出し方を私はしていきたいと思っています。

冒頭にお話しした、オフィス近くで住まいを我慢して住むか、住まいを優先してオフィスから遠い場所に住むか、のジレンマのある2択を超えた暮らし方、住まいのかたちが登場し始めています。これまでの通例に囚われない、新たな物件づくり、マーケティングを行っていきたいです。