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株式会社LIFULL 代表取締役会長

井上高志

人々のウェルビーイングを高めるために不動産業界でチャレンジし続ける

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私たちはお金や時間、場所の制約がある中で生きています。この3つの制約があるために、人類はなかなかウェルビーイングを満たせないでいると、株式会社LIFULL 代表取締役会長 井上高志さんは語ります。「ウェルビーイング(Well-being)」とは、Well(よい)とbeing(状態)を組み合わせた言葉で、「よく在る」「よく居る」状態、心身ともに満たされた状態を表す概念です。

2015年に定められた持続可能な開発目標(SDGs)にも組み込まれており、近年注目度が増しています。今回は、人々のウェルビーイングを高めるために不動産業界でチャレンジし続ける井上さんに、不動産業界との出会いや現代の不動産市場の課題、家具家電付き賃貸・「リレント」の可能性、不動産業界で今後重要になるトレンド、暮らしの未来についてお話しいただきました。

「一生かけて一大事業を成し遂げたい」という思いから不動産業界へ

井上さんは、新卒で株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)に入社し、キャリアをスタートされていますが、不動産業界との最初の出会いについて教えてください。

大学生の時、就職活動でベンチャー企業を受けたのですが、結果は不採用でした。さらに、当時お付き合いしていた彼女に振られてしまったこともあり、このままではいけないと思ったんです。それまでは何も成し遂げたことが1回も無い人生だったので、社会人になったら一生かけて一大事業を成し遂げようと決意しました。

就職活動中は金融業界や財閥系商社、SIer、不動産、建設など様々な業界の企業を見ていましたが、実際に実物があり、人々の暮らしや営みが感じられ、仕事1つ1つも巨大で、当時のGDP500兆円のうち50兆円くらいを占めるほどの巨大産業だった不動産や建設業界に興味を持ち始めました。自分がやりがいを感じられそうか、一大事業として突き進めそうか先輩社会人の話しを聞いて確かめていく中で、自分には不動産ディベロッパーが合っていると確信しました。

当時、三井不動産などの業界大手企業をはじめ、マンションディベロッパー大手の大京などがありましたが、業界1位の企業に入るよりも2番手の企業に入って日本一を目指す方が楽しそうだと思ったことに加えて、一生かけて一大事業をさせてもらえそうな勢いのある企業だと考え、リクルートコスモスへの入社を決めました。実際、お会いした先輩方もリクルート系列の企業に勤めている方はきらきらと輝いて見えました。中には、入社3年目で数十億円規模のプロジェクトのリーダーを任されている先輩もいて、入社してから数年でそんなに大きなプロジェクトを任せてもらえるなんて、とても楽しそうだなと思いました。

不動産を通して人々をお金や時間、場所の制約から解放したい

現代の不動産市場における最大の課題は何だと思いますか?

現代の不動産市場における最大の課題は、「情報の非対称性」だと考えています。私が創業した当時の情報の非対称性と比べると、今はいろいろ解消されてきていますが、それでもまだまだあると思います。当時を100とすると、今は60くらいですね。そのため、情報の非対称性を解消するために引き続きチャレンジしていく必要があると考えています。

2つ目の課題として、生涯の支出の中で住居に関する費用負担が大きいということが挙げられます。費用負担が大きいのに情報の非対称性によって選択を間違えてしまうと、人生にとても大きなダメージを与えます。風水害や地震のレッドゾーンだと知らずに買ってしまい、被災して家が流されてしまうケースもあるでしょう。これも情報の非対称性が原因です。「LIFULL HOME'S」では、不動産ポータルサイトで初めて 『洪水ハザードマップ』を「地図から探す」機能に追加するなど情報の非対称性解消に向けた取り組みを進めています。

加えて、諸外国に比べ日本はスイッチングコストが高く、住み替えしづらいという課題もあります。敷金や礼金、前家賃、仲介手数料、保証料など家賃の約3~5ヶ月分の初期費用がかかります。今はずっと同じ会社に勤め続けるのではなく、転職する方も多いです。東京の会社から転職し、今度は神奈川の会社に行くことになった場合、初期費用が払えないために我慢して東京から神奈川に1時間半かけて通っている人もいると思います。スイッチングコストは、もっとフラットにした方がいいと考えています。

他にも、地方の空き家問題などの課題もありますよね。

そのような課題がある中で、LIFULL HOME'S マンスリーやunitoなど家具家電付き賃貸や、「リレント」システムについてどう思いますか?

ユーザー側から見ると、家具家電付き賃貸や「リレント」システムは良いものだと思います。私は常々、人類はお金の制約と時間の制約、場所の制約があるために、なかなかウェルビーイングを満たせていないのではないかと考えています。これらの制約があるために、ずっと人々は雁字搦めになっている状態です。例えば結婚したり、子どもが生まれたりして家が必要になった時、現在の年収では東京での生活は厳しいから少し郊外に行こうなど、いつもお金のことを考えています。サラリーマンの生涯年収は平均2億5,000万円といわれていますが、その3~4割の支出は住宅関連費とされています。2億5,000万円の40%は1億円です。1億円の意思決定を情報の非対称性がある中で行っているとなると驚きですよね。

もし、住居費を生涯年収の10分の1まで圧縮できれば、より人生が豊かで安心感のあるものにすることができると思っています。15~20年後には、AIやロボットの普及によって、人間は週5時間程度しか働かなくていい時代が来ると考えています。どんどん仕事がAIやロボットに置き換わっていくと、働ける時間が10分の1になり、収入も10分の1になってしまいます。そのため、住居費をはじめ生活コストが10分の1で済むような社会を目指す必要があります。そのような社会になったら、人々は時間の制約から自由になるとともに、お金の心配をする必要がなくなり、そして、場所の制約からも解放されます。有り余る時間と自分のやりたいことを自分らしくやりたいとなった時に、家に縛られることがなくなります。季節ごとや時間ごと、家族のステージごとにファッションを着替えるように住み替えられるようになります。このようにお金や時間、場所から解放されると、自分らしく生きられる社会になると思います。そうすれば、人々のウェルビーイングは今よりも上がるでしょう。

unitoの「リレント」は家具家電が付いているので、好きな時に、好きなところにカバン1つで行くことができます。1泊毎に泊まるユーザーにとっても、ホテルなどに比べて広々しているのに安いというのはとても魅力的だと思います。加えて、居住者の私物の保管や清掃などもやってくれるのもいいですよね。そういったサービスが無い物件で自分が出張等で使っていない時に部屋を貸そうと思うと、自分で私物を全部仕舞わなければいけないなど手間がかかるため、とても面倒に感じ、貸すのを諦めてしまうでしょう。

ただ、事業者側から見ると大変な部分もあるのかなと思います。清掃や私物を片付ける費用が意外に高くつきます。赤字にならないためにも、経営上の数字の作り方に工夫が必要だと感じました。unitoは事業的に難易度の高いことをよくやってるなと感心します。


日本の暮らしをより柔軟にしていくために、今後も頑張っていきたいと思います。最後に、今後の不動産業界で重要になるトレンドや、暮らしの未来について井上さんのお考えや実際に今取り組まれていることをお伺いできればと思います。

地方の空き家は、今後も増えていくと考えています。現在、「LIFULL HOME'S空き家バンク」に掲載されている空き家は約7,000件ですが、ある自治体のホームページには、空き家が1件しか載っていないということもあります。その自治体に「本当は空き家は何件あるんですか?」と尋ねたところ、「3,000件あるけれど、載せる時間が無くて」と返ってきたことがありました。 そういったものを吸い上げていくために、入力部隊など全部現地に派遣する計画を立てています。そして、自治体職員として利用意向確認まで全部オーナーに確認を取り、売りたい人や貸したい人がいれば、弊社の技術でリノベーションし、ニ地域居住や民泊ができる物件を増やしていければと思っています。

さらに、不動産投資サイトを買収したりして空き家への投資を呼びかけ、ユーザーを増やしていけたらと考えています。実際に国内最大級の不動産投資と収益物件の情報サイトを運営する健美家株式会社を100%子会社化しました。ニ地域居住する際、使ってない時に貸別荘のように誰かに貸したい場合、NFTで二次流通させていくというようなことも考えています。

また、「リレント」のような仕組みがあれば、平常時はニ地域居住の家として自分も使いながら、自分が使っていない時は民泊にしたりして、収入を得ることができるようになるのではないかと考えています。加えて、日本は震災など災害が多い国です。全国各地にすぐに住める家が100万件、200万件あれば、被災した時に避難所として使うことができます。そのため、被災するたびに「どうしよう」と考えずに済みます。逆に自分は被災してないけれど、他の地域が被災した場合は「どうぞ使って」と言うことができます。このように、いつでも使える物件がたくさんある状態を作っておけば、レジリエンス国家が作れると思います。